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大統領の理髪師【孝子洞理髪師】

韓国で、今一番カッコイイ男といえばソン・ガンホでしょう。頼れるナイス
ガイ、ガンホ。名前からして骨太なガンホ。おばさんパーマだって似合っちゃ
うんだぞガンホは。ということで、ガンホが気のいい理髪師を演じているこの
映画、庶民が無知ゆえに政争に巻き込まれていく様子は「私は貝になりたい」
に似ていてとても残酷。けど寓話っぽい不思議な味わいもあり、何ともいえず
魅力的な作品です。わしはタイトルだけで見たいと思ったよ。




始まりは1960年。12年続いた李政権が学生革命によって倒され、翌年には朴
正熈が軍事クーデターを起こし、63年大統領に就任する。以降、79年までの
「圧政の時代」が背景となっています。

ソン・ハンモ(ガンホ)が理髪店を営む孝子洞という町は大統領官邸(青瓦台)
のある場所で、革命やらクーデターやらを肌で感じることができる環境。妻が
産気づいた時はちょうど革命の最中で、流血デモの中、ハンモは妻をリヤカー
に乗せてあたふたと逆行する。こういう深刻なシーンほど笑いが効かせてあっ
て、ハンモがいかに政治に無関心に生きているかが際立つのだけど、そのうち
だんだん笑えなくなってくるんですよね。無知がいかに危なっかしいかを見せ
つけられて恐いのです。

息子も生まれ(誕生日が革命記念日というのが象徴的)平和に暮らすハンモで
したが、ある日人生の転換が訪れます。大統領官邸に招かれ、大統領専属の理
髪師に任命されちゃったのです。大統領の髪にハサミを入れ、頬にカミソリを
あてるのはものすごいプレッシャー。でも従順なハンモにとって、これほどの
光栄はありません。忠実に大統領に仕え、渡米にお供するまでになります。
一躍ご近所のスターになるハンモ。けどこの忠誠心が災いして自分の息子を危
険な目に遭わせてしまう。

この映画、政治の季節を徹底して庶民側から描いていて、しかも表現は隠喩&
ユーモアの嵐。例えば、北朝鮮の武装ゲリラがソウルに侵入してきた事件では、
ゲリラたちが集団で下痢をしていたことになっていて、「マルクス病」などと
命名される。マルクス病に罹った者は情報部に逮捕され拷問を受ける。ラジオ
ニュースでは真面目に「マルクス病の感染が拡大しています」と流すし、喩え
の域を超えている。ハンモなど、下痢をしたら逮捕されるのだと思ってしまう。
面白さと恐さの配分が絶妙。ハンモと同じく私(観客)もどこまで理解できて
んのかな?ってわからなくなるはぐらかし方。イム・チャンサン監督(1969
年生)すごいです。っていう誉め方も幼稚すぎますが・・・とにかくスマート!

後半のハンモと息子の物語が胸を打ちます。ディテールで感動させつつ、全体
的にはおとぎ話のようなはかなさがあって。政治の話をここまで作り込めるって
ホントすごいな。全然うまく言えてませんけど、とにかく素晴らしい作品です。


by aundo2005 | 2005-09-09 18:00 | Movie